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「葵上」の舞台展開

​ここでは「葵上」を5つの場面に分け紹介します。

写真 平成5年 研究会 シテ武田尚浩

​撮影 前島吉裕

1、臣下(ワキツレ)の登場

 お囃子方、地謡が着座すると、正先に出し小袖(葵上の象徴)が出される。そして幕から照日の巫女(ツレ)が登場しワキ座へ着座すると朱雀院の臣下が登場する。

 臣下は最近葵上の容態が悪いので、悪い物の怪がついているのではないか調べるために、照日の巫女を呼び出し、梓の弓にかけて物の怪の正体を調べようとする。

2、 六条御息所の生霊(シテ)の登場

 梓の弓に引かれて六条御息所の生霊が葵上との車争いで壊された車に乗って現れ、生きる事への苦しみを語る。

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3、葵上を打ち据えて消える

 照日の巫女を通して自分が六条御息所である事を明かし、高貴な生まれでありながら、光源氏の若い妻に嫉妬心を抱き、そうした嫉妬心を抱くことも恥ずかしいと言っているうちに心が乱れ、葵上を打ち据えて着ていた唐織を上から羽織り、破れ車に乗って消える。

4、臣下は横川の小聖(ワキ)を召し出だす。

 事の重大さを知った臣下は法力の強い横川の小聖を召し出だして、生霊を調伏する様に命じる。 

 

5、六条御息所の生霊(後シテ)の再登場

 小聖の祈祷によって現れた六条御息所は再び葵上に憑りつこうとするが、小聖の法力に調伏され、遂には成仏して消える。

●ひとこと解説 

「葵上」のシテの六条御息所は亡き東宮の妃でしたが、光源氏と恋に落ちます。しかし光源氏の移り気な性格に耐えられず、生霊となって源氏の正妻、葵上の枕元に現れます。
 「葵上」を鑑賞する上でのポイントをいくつかご紹介すると、一つ目はシテの御息所の思いの在り所です。御息所の生霊は恨みを晴らすために現れたと語りますが、その対象は自分を捨てた光源氏に対してなのでしょうか、それとも光源氏の寵愛を受けた葵上に対してなのでしょうか。そしてその怒りの中にもそういった感情を抱いてしまう自分への恥じらいや躊躇いが感じられます。二つ目は後シテは怒りの般若の姿ですが、もとは御息所という高貴な人物なので、そこにはどこか恥じらいや気位が感じられると思います。
 また、能では六条御息所のその後を描いた作品として、「野宮」があります。御息所は光源氏への思いを断つために野宮へと篭りますが、死後も光源氏への思いが断てず、僧の前に幽霊として現れるお話です。

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●小書きについて
葵上の代表的な小書(特殊演出)は二種類あります。
小書きが付くとシテは楽屋へ中入りし、装束を取り換えることが多いです。

 

・梓之出
照日の巫女(ツレ)が六条御息所(シテ)を呼び寄せる口寄せの梓(アズサ)に由来する小書きで、通常だとシテは一声という登場音楽で登場しますが、ツレの謡の途中で囃子事が入り、その間に登場します。また、六条御息所の生霊であることを告白する〈クドキ〉の部分はツレと連吟となり、よりツレに憑依しているような演出となります。


・空之祈(くうのいのり)
後場の〈祈〉の場面で六条御息所が見えなくなり、横川小聖が空中に向かって祈りをする小書。


写真は平成17年に研究会にて武田尚浩が「梓之出」の小書きにて勤めた時のものです。

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