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「羽衣」の舞台展開

​ここでは「羽衣」を4つの場面に分け紹介します。

写真 平成28年 朋之会 シテ武田祥照

​撮影 前島吉裕

1、漁師白龍一行の登場
 囃子方、地謡が座付くと松の作り物が運ばれ、舞台の正面手前に置かれます。
一声という囃子により漁師の白龍(ワキ)が他の漁師(ワキツレ)を伴い登場します。三保の松原の長閑な春の様子を謡います。
そして、浦の景色を眺めていると、素晴らしい香りが立ち込め、松に美しい衣が掛かっているのを発見し、拾い、持ち帰ろうとします。

 

2、天女の登場
 すると、天女(シテ)が現れ、その衣は自分のであるから返してほしいと呼び掛けます。その衣は羽衣という天人の特別な衣であると言うと、白龍は国の宝にしようと衣を隠してしまいます。
天女は羽衣が無ければ飛翔出来ないので、天上界へ帰れないと涙を流し嘆き悲しみます。

3、白龍の申し出
 嘆く天女の姿を見、白龍は月の宮殿に伝わる舞楽を見せてくれるならば衣を返そうと言います。
 天女は喜び、舞うために衣を返して欲しいと頼むと、白龍は先に衣を返してしまったら舞わずに帰ってしまうのではないかと疑います。
天女は疑いは人間にあるもので、天には偽りは無いと言い、恥ずかしく思った白龍は衣を返します。

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4、天女の舞楽
 天女は月の宮殿での天女達の有り様や三保の松原の春の景色を謡い、舞います。
そのうちに、愛鷹山から富士山へと天高く飛翔し、霞に紛れて姿が消えてしまいます。

​●ひとこと解説

 作者は世阿弥とされるが、諸説あります。典拠は「丹後国風土記」逸文の羽衣伝説です。日本各地に認められる羽衣伝説は天女が人間に富をもたらす等様々ありますが、能の場合はそれらと全く異なり、天上界の再現、すなわち天上の舞いを鑑賞することに物語の本質が置かれています。

 舞台は世界遺産「富士山」の構成資産として登録された三保の松原です。物語の前半では、羽衣を拾い得た漁夫の白龍(ワキ)と羽衣を取られ天上界に帰れなくなった天女(シテ)との葛藤があり、戯曲的に盛り上がりを楽しむことが出来ます。そして、いざ、天女の舞いと引き換えに羽衣を返す段、天女の約束不履行を疑った白龍に対して天女が「いや疑ひは人間にあり、天に偽りなきものを」と一蹴し、白龍は「あら恥ずかしやさらば」と、衣は無事に天女の元に戻ります。

 後半では、天女はいよいよ羽衣を纏って天上の舞いを舞い、天へと昇って舞台は幕を閉じます。クセの後で天女は「南無帰命月天子 本地大勢至」と唱えるが、これは、この天女が大勢至菩薩の化身である月の天子に仕える身であることを示しており、仏教思想の観点からも趣深いことです。

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