「烏帽子折」の舞台展開

​ここでは「烏帽子折」を9つの場面に分け紹介します。

写真 平成10年 研究会別会 シテ武田尚浩 子方祥照

​撮影 前島吉裕

1、金売吉次兄弟(ワキ・ワキツレ)の登場

 お囃子方・地謡が着座すると、次第によって吉次信高と弟の吉六が登場し、都で商いを終えて奥州へ帰ることを語る。

 

 2、牛若丸(子方)の登場

 すると幕より牛若丸が声をかけ、奥州へ下るのであれば自分も連れて行ってほしいと頼む。吉次は突然の事に戸惑い、両親や師匠はいないのかと尋ねるが、牛若丸は両親もなく、師匠には勘当されてしまったので、連れて行ってほしいと頼む。吉次は牛若丸に笠を与え、共に奥州へと下ることにし、逢坂の関を越えて鏡の宿へと到着する。

一行は後見座へとくつろぐ。

3、早打ち(間狂言)の登場

 すると早打ちが登場し、牛若丸が鞍馬寺から抜け出したことを語り、全国に牛若を捕まえるように命令が下ったと語り消える。

 

4、牛若丸は元服することにする

 これを聞いた牛若丸はこのままの姿では見つかってしまうと考え、元服し装いを改めることにし、烏帽子屋を尋ねる。

 

5、烏帽子屋の主人(前シテ)の登場

 幕より烏帽子屋が現れ、今は夜分なので、明朝再び来るように言うが、牛若丸は急ぎの用であると所望し、「左折の三番」の烏帽子を所望する。これを聞いた烏帽子屋は今は平家を象徴する右折の烏帽子が主流であるのに左折とは思いがけない事であると言い、左折の烏帽子にまつわる逸話を語る。

そもそも左折の烏帽子は源氏再興の祖、八幡太郎義家が奥州安部貞任を追討し、その報告に昇殿した折に、左折の烏帽子を付けていた。これを見て帝は陸奥国を恩賞として与えた。きっと今作っている烏帽子もそのようなめでたい烏帽子になると祈念して、烏帽子を牛若丸に着ける。牛若丸は烏帽子のお礼にと小刀を主人に渡す。

6、主従の再会

 主人はこの刀を妻(ツレ)に見せに行く。幕より登場した妻はこの刀を見てさめざめと泣く。不思議に思った主人が分けを尋ねると、自分は源義朝の家臣、鎌田兵衛正清の妹で、その刀は「こんねんどう」と言って牛若丸の守り刀であると告げる。驚いた主人は先ほどの少年は牛若丸であったと気づき、急ぎ戻り主従の再会を果たす。しかし、明け方となり吉次一行が出発する為、牛若丸も鏡の宿を出、赤坂の宿へと下っていく。

7、赤坂の宿にて

 赤坂の宿についた一行は宿を手配することにする。そこで宿の主人(間狂言)から盗賊が吉次一行を狙っていることを聞く。驚く吉次に牛若丸は一行に襲撃に備えるように命じ、自分は鞍馬山での鍛錬の成果を見せる時と武装を整えて待ち構える。

 

8、盗賊の先陣(間狂言)の登場

 盗賊の先陣が3人登場し、物見の為、門を開き、中の様子を手探りで探す。そして、松明を持ってきて中を探索すると牛若丸に見つかり、一つ目は切り落とされ、二つ目は踏み消され、三つ目は投げ返される。

 

9、熊坂長範一行(後シテ・立衆)の登場

 登場した熊坂は火振りの先陣の磨針太郎兄弟が12・3歳の小男に返り討ちにあい、部下の高瀬四郎は分が悪いと手勢70騎を率いて引き返してしまったと報告を受ける。そして松明占いの結果を聞く。松明占いとは盗賊の今宵の盗みの成功を占うもので、一つ目は戦神が付いているか、二つ目は時の運があるか、三つ目は我らの命が安全かであるが、どれも消されてしまったと聞く。これを聞いた熊坂は今宵は撤退しようかと考えるが、今逃げ帰っては大盗賊熊坂長範の名が廃ると夜討ちを決行する。

 〈カケリ〉という囃子だけの演奏となり、牛若丸と熊坂一行が戦う。

手勢を全てやられてしまった熊坂は五尺三寸の大太刀を抜き、秘術を尽くして牛若丸に襲い掛かるが、遂にはやられてしまう。

​●ひとこと解説

 ワキの信高は黄金を扱う商人で、当時金の一大産地であった奥州で金を仕入れて、都でその金を品物に変え、その品物を再び奥州で売って金に換えるという商売をしていました。平安時代末期に奥州が藤原氏によって統治されるようになると、奥州で豊富にとれる金を都に持っていき、都の最先端の品々と交換することによって奥州は小京都と呼ばれる程の文化水準を得たと言われています。一説にはこの信高は藤原秀衡のスパイで都の情勢を調べていたとの説もあります。

 牛若丸の元服の事は「平治物語」に書かれており、烏帽子折のお話と同じように追手が迫っていることを知った牛若丸は鏡の宿で元服いたします。追手から逃げている所でしたので、烏帽子親となる人がおらず、牛若丸は八幡大菩薩を烏帽子親として元服します。そして源氏の代々の文字の「義」と、源氏の祖、基経王の「経」をとり、九番目の男子であるので、九郎義経と名前を改めます。義経が元服した場所は現在、鏡神社となっており、義経が烏帽子をかけた松が残っています。

 この烏帽子折の話の中心人物は牛若丸で、子方にとって大役と言える曲です。その為、子方の卒業曲として上演されることも多くあります。前場でシテが子方の烏帽子を付ける部分は、武士にとって烏帽子を付ける事、元服をすることは大変重要な儀式であり、武家の式楽であった能においても同じく重要な意味を持ちます。それは子方が一人の大人としての一歩を歩むこととも意味しており、大切なはなむけともなる曲となります。

 因みに一説には熊坂長範は討ち失敗の後、辛くも一命をとりとめた熊坂は心を入れ替えて仏道修行に励み、「たんざん上人」と呼ばれて地元の人々から崇敬を集める徳の高いお坊様になったと言われています。

 この熊坂の討ち入りを扱った曲として、「熊坂」という曲があります。この曲は熊坂の幽霊が現れていかに自分が牛若丸と戦ったかを語るお話で、この夜討ちを熊坂側の視点から描いた作品です。

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