「心より心に伝ふる花」を目指して
「藍染川」の舞台展開
ここでは「藍染川」を8つの場面に分け紹介します。
武田尚浩家では演能記録がないため写真なしで掲載します。
1、京の女と梅千世(前シテ・子方)の登場
囃子方、地謡が着座すると、左近尉(ワキツレ)が登場し着座する。次第という登場音楽によって、京の女と息子の梅千世が登場する。女は都で筑紫の太宰府の神主と恋仲になり、一人の子をもうけたが、彼は自分を都において筑紫へ帰ってしまった。この息子を父に合わせるために筑紫へと下る旨を語り、心細い旅路を謡う。
2、宿にて手紙をしたためる
筑紫に付いた一行は左近尉の宿を借り、左近尉に太宰府の神主への手紙を預ける。左近尉はこの手紙を太宰府へと持っていき神主に取次ぎを頼む。すると神主の本妻(間狂言)が登場し、神主は祈祷中であると手紙を受け取り、勝手に内容を読む。怒った本妻は神主に手紙を見せずに勝手に返事を書いてしまう。
3、左近尉は返事を持って帰る
左近尉は女に返事を手渡す。それには都から筑紫へ下るのは男でも大変なことであるのに、女子供だけで来られたたとは思えない。他に男ができて彼についてきたついでなのだろうから会うことはできない。梅千世にも伝えてほしいが自分が親だとは思うな。都へ帰りなさい。との事であった。これを見た女は嘆き悲しむ。
4、女は身を投げる
さらに左近尉は本妻より宿を貸すことはならないと言われたため、二人を宿から追い出す。女はこれから都に帰るので、その支度をするのであちらで待っていなさいと梅千世に言いつけ、藍染川へと身を投げてしまう。(中入り)
5、左近尉は亡骸を見つける
後見が舞台上に女の亡骸を表す小袖を持ってくる。藍染川に人が身投げしたと聞いた左近尉が様子を見に行くと先ほどの女であった。驚いた左近尉は梅千世を連れてそこへ行き、悲嘆にくれた梅千世は自分も母の後を追おうと身投げしようとするが、左近尉はこれを止め、母の遺書を形見として手渡す。
6、神主(ワキ)の登場
何やら藍染川に人だかりができていることを知った神主が登場し、左近尉は神主に身投げがあったと説明する。神主は子供の持っている遺書を読む。読み進めていくうちに、この子供が自分の子供であり、身投げしたのが京都で契りを交わした女であると気づく。神主は梅千世を抱き寄せ、自分が父であると名乗る。
7、神主は女の亡骸を見る
女があまりに不憫であるので、神主は女の亡骸を見にいくとあまりに無慙な姿となっていた。神主は臨時の幣帛をささげ女を蘇生させようと準備を始める。
8、太宰府天神(後シテ)の登場
幕より一畳台と宮の作り物が出される。神主が祝詞を上げると御殿より天神が現れ、女を蘇生させ天へと帰っていった。
●ひとこと解説
大変上演回数の少ない稀な曲です。
あらすじは能にはめずらしいドラマ的な話になっていますが、最終的に天神が現れ、亡くなった母を蘇らせるという実に能楽的な解決に落ち着く作品となっています。天神は無実の人を助けるという天神信仰に基づいた作品。
マニアックな面ではワキとシテが幣を持つ珍しい曲です。