「心より心に伝ふる花」を目指して
「恋重荷」の舞台展開
ここでは「恋重荷」を4つの場面に分け紹介します。
写真 平成28年 能尚会 シテ武田尚浩
撮影 前島吉裕
1、女御(ツレ)、臣下(ワキ)の登場
お囃子方・地謡が着座すると女御が登場し、ワキ座に着座する。すると臣下が名乗り笛によって登場し、山科の荘司が女御に恋をしたという噂を聞き、本人に聞く旨を語る。
2、山科の荘司(前シテ)の登場
山科の荘司が臣下の前へ呼び出され、重荷を持ち上げるならば女御が姿を現すであろうと伝える。これを聞いた荘司は重荷を持ち上げようとするが、持ちあがらず遂には死んでしまう
3、女御は荘司の死を聞く。
荘司が死んでしまった事を聞いた臣下は重荷の重さは恋の重さであり、重荷が持ち上げられないのは女御への恋心が叶わないことを知ってもらうためであったと告白する。荘司があまりにも不憫なので、女御に一目見てもらおうと思い、女御を案内する。女御は荘司の死体を見るや、石に押されたように体が重くなり、立ちあがれなくなる。
4、荘司の怨霊(後シテ)の登場
荘司の怨霊は重荷を持たされた恨みを述べ、女御に詰め寄るが、遂には心が晴れ、「葉守の神」になる事を約束し消える。
●ひとこと解説
恋心には実体がありません。目で見る事ができないこの感情を具現化させたものが「恋の重荷」です。恋をすることは重荷を担ぐことであり、美しい女御への恋は美しく包まれた巌となって舞台上に現れます。前場は荘司が自分の恋の重さを重荷の重さを以って実感し、後場では女御が荘司の恋の重さを実感させられます。
世阿弥は『恋重荷』について『申楽談儀』にて「色ある桜に柳の乱れたるようにすべし」と残しています。これは荘司の怨霊を演ずる上で、『風姿花伝』で説いた「巌に花の咲かんがごとし」という鬼の心得を持つことを示すと同時に、「乱れた柳」のように恋に乱れた荘司を通して垣間見る「桜」のように美しいツレを見せる事を指しているとも考えられます。