「歌占」の舞台展開

​ここでは「歌占」を5つの場面に分け紹介します。

写真 平成9年 研究会 シテ武田尚浩 子方崇史

​撮影 前島吉裕

1、白山に住む男(ツレ)と幸菊丸(子方)の登場

 白山の麓に住む男が登場し、近頃この周辺で旅の男覡(おとこみこ)が小弓に短冊を付けた歌占いをしているので、自分も占ってもらう旨を語り、幸菊丸に占いを所望するのであれば一緒に行こうと声をかける。

2、渡会何某(シテ)の登場

 渡会何某が小弓を携えて和歌の歴史や徳を語りながら登場する。渡会を見つけた男はまだ若いのに白髪となっている理由を尋ねる。渡会は自分は伊勢神宮の神職であるが、諸国を廻っている途中で急死してしまい、その三日後に蘇った時には白髪になっていたと答える。

3、渡会の歌占い

男は歌占いをしてほしいと頼み、小弓の短冊の歌を詠むと

「北は黄に 南は青く 東白 西紅の 蘇命路の山」という和歌であった。これを聞いた渡会はすぐに男の父の病状を尋ねる占いと見破り、この歌の意味を説く。歌には死を現す方角の西が紅という不吉な色になっているが、蘇命路とあるので病は必ず回復するであろうと判じる。

続いて幸菊丸が歌を詠むと

「鶯の かいこの中の ほととぎす しゃが父に似て しゃが父に似ず」という和歌で、幸菊丸が父を捜していると答える。渡会はこの歌占いでは既に父に逢っていると出ていると言う。不思議に思った渡会が幸菊丸の出自を尋ねると我が子である事に気づき、対面を果たす。

4、地獄の有様を見せる

男は渡会に死んだ時に見た地獄の有様を所望し、それに応じて渡会は舞い始める。

この世界は諸行無常であり、どんな人生を送ろうとも死の苦からは逃げる事が出来ず、死後に我々は前世の悪行によって地獄に落ちる。地獄とは巨大な臼で身を削られて何度も死の苦しみを味わう斬鎚地獄、剣の生えた樹に登らされて剣に切られて手足がバラバラになってしまう剣樹地獄、巨石で身をつぶされる石割地獄、頭に火炎を載せて全身から炎が噴き出す火盆地獄、火炎に咽ぶ焦熱大焦熱地獄、氷の中に閉じ込められる紅蓮大紅蓮地獄、ある時は頭を砕かれ、ある時は足を焼かれる地獄の苦しみを語る。

5、幸菊丸を伴って帰国する

地獄の有様を語るうちに神がかりし、その神に打責められる。(立廻)

神の責めの後にぼんやりと狂気から覚めた渡会は幸菊丸を伴って伊勢へと帰る。

​●ひとこと解説

 シテの渡会何某は伊勢の神職であると名乗っています。史実上も渡会氏は代々由緒正しい伊勢の神職の家系です。彼が行っていた歌占いは平安時代から行われている占の方法で、和歌は神の言葉を聞く共通言語であったようです。現在でも神の声を聴く手段としておみくじがありますが、当時のおみくじには歌が書いてあり、その歌の意味を解釈して自分の悩みの答えにするものだったようです。現在でもおみくじに和歌が書いてある寺社もあります。因みにこの渡会氏の子孫の家には歌占の弓が伝来しており、

能で登場する形と同じく、弦に短冊をつるした状態をしているそうです。​その為、シテが歌占いを判じて聞かせる部分(舞台展開三番)は、難解な内容ですが、異風な男覡が歌を判ずる言葉の面白さと、説明的な語りとは異なる独特の呼吸での謡いが大きな見どころの一つです。

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