「心より心に伝ふる花」を目指して
「鉄輪」の舞台展開
ここでは「鉄輪」を6つの場面に分け紹介します。
写真 平成13年 研究会 シテ武田尚浩
撮影 前島吉裕
1、貴船神社の社人の登場(狂言開口)
貴船神社の社人が夢で丑の刻参りをする女性にこの告げを伝えよと神託を受けた旨を語る。
2、都の女性(前シテ)の登場
笠をかぶり、夜道を貴船神社へと歩く一人の女が登場する。女は夫に裏切られた恨みと貴船への道中、糺河原やみぞろ池を通り、鞍馬川を渡って貴船へ向かう様子を重ねた謡を謡う。
女が床几に腰をかけると貴船神社へ着いたことになる。
3、社人の御告げを聞く
社人は女を見つけ、お告げはこの人物の為だろうと推察し伝える。「顔に赤い丹(に)を塗り、鉄輪台(五徳のこと)に松明を付け、赤い衣を着て怒れる心を持つなら願いが叶うだろう」と教える。女は自分の事ではないと言いながらも、顔色が変わり、恐ろしい顔になる。女の変化に社人は逃げるように居なくなり、女は夫に思い知らせる好機だと家路を急ぐ。(中入)
4、夫(ワキツレ)の登場
場面が変わり、洛中では夫(ワキツレ)が妻と離婚し、若い妻と結婚して以来、夢見が悪いことを悩み、陰陽師・安倍晴明(ワキ)へ相談に向かう。安倍晴明は夫の命が今晩にも危ういことを見抜き、急いで祈祷の準備を始める。
5、安倍晴明が祈祷を始める
男性と女性の形代を安置した台を拵え、安倍晴明が祈祷を始める。そのうちに、雷がなり、御幣が風になびいて音を立てただならぬ様子になる。
6、鬼女(後シテ)の登場
出端により、お告げの通りの格好をし、鬼となった女が登場する。女は、形代を夫と新しい女だと思い、恨みを述べ、打ち据える。すると、三十番神という守護神達が現れ、女は守護神達に責められ、必ず再び戻ってくると言って消え失せる。
●ひとこと解説
言わずと知れた丑の刻参りを題材にした曲です。京都の鍛冶町という所に鉄輪の女が住んでいたと言われる場所が残っており、ここから貴船神社までは片道15キロ程。これを毎晩通うならば相当の執念が感じられ、おのずと前シテの出の歩みにはその一足一足が感じられるかと思います。全体を通して鉄輪の女の凄みが大きな見所の一つ。後場はシテの鉄輪の女はワキの晴明とは会話することなく、どこまでも独り相撲の曲で、それが返って鉄輪の女の孤独や悲しみの深さを表しています。